音と香りが導く、あの春のスペイン
- 辻田いずみ 香りのピアノ教室
- 3 時間前
- 読了時間: 2分

20代の頃、私はひとり旅に出ました。
憧れていたのは、
ムーミンに出てくるスナフキンのような、
風の向くままに歩く自由な旅。
行き先はスペインですが、
域と帰りの飛行機のチケットだけを買って
旅に挑みました。
頼みの綱はガイドブック。
そう、心の中には期待と同じくらい、不安もありました。
ちょっとかじっただけのヘロヘロのスペイン語、
知らない街、ひとりで乗るバスや列車。
「本当にここで大丈夫かな」
「ちゃんと次の街へ行けるかな」
そんな小さな緊張を抱えながら、コルドバの街に着いたときのことです。
ふと気づくと、道のあちこちに
オレンジの木が植わっていました。
春の光を浴びて、枝には実がたわわに実り、
町中に甘く温かみのある香りが漂っていました。
「こんなに実っているのに、誰も取らないのかしら?」
「法律で禁止されているのかな?」
そんなことを考えているうちに、
不思議と胸の不安がほどけていきました。
知らない街なのに、その香りがまるで
「大丈夫、君ならどこででもやっていける」と
言ってくれているようでした。
そして次の街へ向かう長距離バスの中。
窓の外には、乾いた大地と
オリーブ畑が流れていきました。
そのとき車内に流れてきたのが、
ギター曲「アルハンブラの思い出」でした。
もの悲しく、でも美しい旋律。
その音を聴いた瞬間、私はただ旅をしているのではなく、
「憧れていたスペインの中に、今、本当にいるんだ」と実感しました。
胸の奥がきゅっと熱くなり、景色も空気も、
その音楽に包まれて一枚の絵のように記憶に刻まれていきました。
それから随分と経った今でも、オレンジの香りを嗅ぐと、
私は一瞬であの春のコルドバに戻ります。
また「アルハンブラの思い出」を聴くと、
長距離バスの窓から見たスペインの街道が、
ありありと目の前に広がります。
音楽と香りは、記憶の扉を開ける鍵なのだと思います。
写真よりも鮮やかに、言葉よりも深く、
そのときの不安や憧れ、
安心した気持ちまで連れて戻ってきてくれるのです。
あなたにも、忘れられない香りや音楽はありますか。
旅の記憶、大切な人との時間、自分だけの特別な季節。
その思い出に寄り添う音や香りを、
もう一度ゆっくり味わってみてください。
きっとそこには、今のあなたをそっと支えてくれる、
かけがえのない記憶が残っているはずです。




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